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物理学の未来

物理学の未来  著:ロバート・B・ラフリン 訳:水谷淳 日経BP社
(原題:A Different Universe: Reinventing Physics from the Bottom Down)

創発というキーワード。集団になることで物理的性質が現れるということ。むしろ、いわゆる物理的性質というのは集団現象である、と。一つの粒子の性質や振る舞いを完璧に記述できたとしても、それが大量に集まった際の性質にたどり着かない。
還元主義に偏りすぎることへの警告と実験結果と向き合うことの強調。

文章として、「その逆」という言葉が多用されるために、意味を汲み取るのが難しいところもよくよく。
しかしまあ全体にはアメリカ的科学啓蒙書の範囲であって、難易度は高めだが、それでも内容が首尾一貫していて「集団になることで性質が表れる」こと(事実)に注目せよという主張に結び付いている。
その軸がぶれないさまはなかなか見事で、また作者の言いたいことがそれ(「集団〜」)だと気づけば、それを意識することでかなり読みやすくもなる。

また、日常風景や科学者の様態など、科学(この場合は物理がメイン)と離れた読みやすい文章を含んでいるために敷居が高すぎるということもない。しかし、ブライアン・グリーンの「エレガントな宇宙」よりは物理的事柄への言及が多いかな。

なかなかおもしろい内容でした。

以下にいくつか引用

P.37

「物理学において、正しい認識と間違った認識との違いは、実験精度が向上したときにより明確になっていくかどうかにある。」

P.72 この引用の後半部がこの本を通しての主張であり、軸であるといってよいと思う。

ミネソタ州の湖に浮かぶ氷や、上空で大都市ほどの大きさに広がる雲は、組織が法則を作るのであってその逆ではないことを物語る、単純かつ具体的な証拠だ。問題なのは、基本的な法則が間違っていることではなく、それが不適切なものとなる、すなわち組織化の原理によって力を失うことである。

P.82

「鉛筆が尖った先を下にして、どれだけの時間バランスを保つことができるか計算せよ」という有名な量子力学の問題である。答えは約五秒間だ。

政治においては、ある物事が広く議論されるまでそれは「現実」にはならないので、報道機関はちっぽけな出来事を増幅して、それを事実上現実のものにしてしまう。

P.138 章の冒頭にある引用文 ニーチェ

過去から未来永劫まで通用する話だ。かつてストア哲学者たちに起こったことは今でも起こっており、それは、一つの哲学体系がそれ自体の価値を信じるようになれば直ちに起こるものだ。それは、常に世界を自らのイメージの中で生み出し、決して他の形で生み出すことはありえない。

P.163

アインシュタインの論証は確かに美しいものだが、今日我々が相対論を信じているのは、それが真であるべきだからではなく、測定によって真であると判明したからなのである。

P.187

ほとんどの人間にとって、物事を理解することは、それを制御することと同義である。例えば、「自分の子どもを理解できない」というのは、実は「自分が思った通りのことを子供がしてくれない」という意味である。

P.217

科学では、自分の知ったことを人々に教えることで力を得るが、工学においては、自分の知ったことを人々に知られないようにすることで力を得る。

P.231

「実際には存在している物理的事柄を存在していないとする法則は、最終的には機能しなくなる」というものだ。無知から来る幸福が何十年続こうとも、いつかは真実の瞬間が訪れ、結果は悲惨なものになるだろう。恐ろしく危険な事柄を処理するための正しい方法は、それを徹底的に理解して広く議論することなのだ。

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